2024年6月4日 更新
- 勝手に仕事を取ってくる
- 自分で集客もする
- 営業も得意
- 事務処理も早い
- 休みなく働き続けるし
- 残業や休日出勤に文句を言わない、
- なんならサビ残、サビ出勤上等
- 後輩・新人の面倒見も良い
こんなスーパーマンみたいな社員が会社にいたら経営者はとても助かりますよね。
(サービス残業、手当なしの休日出勤は違法ですNGですが・・・)
実はこれ、証券会社で働いていたときの私自身なんです(執筆者:杉山広のプロフィール)。
この記事を執筆する杉山は過去に証券会社でエース社員として働いており、倫理観のぶっ壊れた業界への怒り、哀しみ、そして、成果に対する報われ無さが会社への怒りに転じ、独立することになりました。
中小企業では一握りのエース社員に頼り切っている面があると思います。
「無理なスケジュールだけど、あの人にお願いすれば、仕上げてくれる」
「今月のノルマが厳しいけど、あの人が遅れを取り返してくれるだろう」
このように、できるエース社員が会社の売り上げや仕事の多くを請け負う形になっている中小企業は少なくありません。
そもそも中小企業は優秀な社員を雇うべきなのか?
むしろデキル社員を雇わないほうがいいのではないか?という点についても執筆しています。
本記事は中小企業が一部のエース社員に頼ってしまうことの危険性や対処法について、実際にエース社員として働いていた杉山の目線で解説します。
エース社員が退職する理由と退職による悪影響
会社にとっては大助かりの存在であるエース社員ですが、彼らの多くは会社への不満を表に出すことはありません。エース社員が「上司や社長に絶対言わない会社を辞める理由」とはどんなものがあるか、解説します。
辞める理由① 会社の方針や経営者に対する不満がある
エース社員の多くは現状に満足していません。
- もっと自分は成長できる
- もっと大きな成果を作れる
- 新しい業務に挑戦したい
このように考えています。それにも関わらず上司は現状に満足し、会社は古い体質のまま変わらないのであればどうなるでしょうか?
彼らは「この会社は自分には合っていない。一生懸命仕事をして他人より成果を出すことがバカバカしい。」と感じます。
賢いエース社員は自分がもっと活躍できる会社を求めて転職の準備を始めます。
辞める理由② 給料が少ない ねぎらいが無い
営業職で売上面において会社に大きく貢献しても、
- 給料は成績が良くない同僚と同じ
- 会社が成果を褒めない、認めない
このように会社が正当な評価を怠れば、優秀な社員の気持ちはすぐに離れていきます。
年功序列型の給与体系の会社は年々減ってきており、成果報酬型が主流となっています。給料やボーナスに成果を反映させて目に見える報酬がないと社員の不満が増大します。
厄介なことに、社員の働きに報酬面で応えるだけでは足りないのです。人間は成果を褒めてもらったり、認めてもらったりすることで組織への愛着が生まれます。
アメリカの心理学者マズローの学説(5段階欲求)にあるとおり、人の欲求レベルは5段階あり、上から2番目に高いのが、褒めて認めてもらえる「尊厳欲求(承認欲求)」です。
優秀な人間には成果に応じた報酬とねぎらいをかけるのは会社として必要な施策です。
会社への悪影響① ノウハウと顧客を引き抜いて独立してしまう
売上を沢山稼いでくる社員が辞めてしまうときは、会社にとって重大なリスクが発生します。
売上が減ってしまうことは当然ですが、それ以上にエース社員が退職するにあたり経営者が最も警戒すべきことは何でしょうか?
それは元社員があなたの会社の営業ノウハウや顧客リストなどを持ち出して、独立してしまうことです。
例えばあなたがリフォーム会社(A社)を営んでいるとします。A社で3年ほど働く社員ならば、各種リフォームの相場、利益率、材料の発注先などについてはほぼ把握していることでしょう。
また、自社の営業エリア内にいる優良顧客(リピーター、顧客を紹介してくれる顧客など)の情報も知っているはずです。優良顧客だけでなく、過去に1回でも仕事を受注したことのある顧客リストにアクセスできる立場にあることでしょう。
一定の成果を上げている集客方法についても自社の社員は当然ながら把握しているはずです。
優秀な社員であれば営業力も高いため、リフォーム提案、顧客との価格交渉についても手慣れたものです。元A社の社員ならばA社のリフォーム価格を把握していますから、A社より少し安めに顧客へ提案することだって出来てしまいます。
つまり、あなたの会社の財産である顧客やノウハウをそのまま持ち出して近隣でリフォーム屋さんを開業することが、いつでも出来るわけです。
そんなことが起きれば経営者として、許せるわけがありません。
しかし、自社に対する社員の不満が大きければ大きいほど、独立されてしまうリスクは高まります。
人間の不満は最初は小さいものですが、不満が大きくなれば「会社や経営陣への怒り」に変わってしまいます。
会社への悪影響② 生産性や売上の低下
エース社員が辞めてしまうことで最も影響を受けるのは売上です。稼ぎ頭が辞めてしまうわけですから売上低下は避けられません。
優秀な社員は売上を沢山稼ぐだけでなく、事務処理能力も高いことが多いです。つまり、売上が減るだけでなく事務処理などの裏方業務の負担も一気に増えてしまいます。
結果として、辞めた社員の業務引き継ぎなどで残った社員の仕事量は大幅に増えてしまいます。
会社への悪影響③ 退職の連鎖
仕事ができるエース社員を慕っている同僚や後輩は少なくはないはずです。
優秀な社員は部下や後輩の面倒見が良いことも特徴の1つです。
もしそんなエース社員が辞めてしまったら後を追って辞める社員は少なからず出てきます。
エース社員の退職は、エース社員の退職だけに留まらずに退職の連鎖を引き起こすことになります。
ベテラン、エース社員の退職を防ぐ方法と対策
退職のサインを見つける
辞めそうな社員の言動には一定の傾向があります。退職しそうなサインを見つけ、社員が辞めてしまう前に対策を打つといいでしょう。
これについては次の記事で退職するサインの見分け方や対策を詳しく解説しています。
退職を決意した人が出すサインとは?離職を防ぐために上司がとるべき行動
社員を平等に評価しない
社員の評価は「明確な差」をつけなければいけません。
- エース社員
- 普通の社員
- 出来ない社員
これら社員を同じような給料・ボーナスで雇っていては優秀な人から次々に辞めていきます。
社員の会社への貢献度に合わせて待遇面・役職に差をつけていくことは必須です。
同僚や会社がサポートしていることを伝える
成績は良いものの、周りの支援によって自分の仕事が円滑に進んでいることを忘れてしまっている社員がいます。乱暴な言い方をすれば「調子に乗っている社員」です。
エース社員といえども、1人で仕事を全て完結させているわけではありません。
事務方の支援、上司のフォロー、会社が集客にお金をかけていることなども忘れてはいけません。
集客活動、事務処理、取引先との調整など、同僚や会社の支援があってこそ営業員が高成績を挙げられていることを伝えましょう。
同僚や会社の助けがあるという事実を理解させることで、優秀な社員の退職を防ぐことにつながります。
顧客の担当はチームで行う
退職を防ぐ方法として、「顧客の担当はチーム、あるいは複数人で行う」ことが有効です。
一部の優秀な社員に顧客対応を完全に丸投げしてしまうと、会社ではなく担当者に顧客は好意を持ちます。仮に担当者が独立するとなれば、取引先は「独立後のあなたに引き続きお願いするよ」と考え始めます。
エース社員の立場で考えれば、売上を見込める顧客を引き抜いてしまえば、転職も独立・起業も容易なわけです。あなたの会社は踏み台とされてしまうことになります。
そうならないためには前述のとおり、担当者1人に顧客対応を丸投げするのではなくチームで顧客サポートを行うとよいでしょう。
集客を必ず会社でやる 社長自ら企画・実行する
エース社員に売上を頼ることのリスクは語り尽くせないほど大きいといえます。一部の社員に売上を依存しないためには会社側が「集客に注力する」ことが大切です。
集客と営業は同じことのように解説されることはありますが、全くの別物です。
集客は言葉どおり、お客になりそうな「見込み客を集めること」です。
具体的にはチラシ、web広告、動画広告、DM、セミナー開催などで見込み客を集めてくることが集客と呼ばれます。
他方、営業というものは「集客によって問い合わせがあった見込み客」を成約に持っていく行為を指します。
営業員は目の前にいるお客を成約に持っていくことが仕事であり、優秀な社員は成約させる能力が高いわけです。逆に言うと集客できなければ見込み客からの問い合わせが無いので、営業員は仕事が無くなってしまいます。
このような環境をつくれば「転職や独立しても失敗しそうだな・・・」と社員は考えるようになります。経営陣から「会社が集客予算を払っているから、お客に困らないんだよ」と従業員に伝えることもできます。
営業が得意で、成約させることについてはずば抜けた能力を発揮する社員でも、集客は全く出来ないというケースは非常に多いのです。何故ならば集客はある程度の予算(数十万円)が必要です。社員が自分の給料から広告費を捻出するのは極めて難しいからです。
集客を会社側(社長自ら)で企画・実行することはエース社員の退職抑止に効果的です。
とはいってもスーパーマン社員に頼ってしまう・・・
集客も営業も事務処理も取引先との関係構築もすべて上手くやる。
こんなスーパーマンみたいな社員、稀にいますよね。
私の考えを言わせてもらえば、優秀すぎる社員を中小企業で使いこなすことは無理だと割り切っておくことが大切です。スーパーマンを満足させるだけの給料・ボーナス・福利厚生・待遇・将来のキャリアプランなどを、はたして中小企業が準備できるでしょうか?
正直なところ、難しいと思います。
何でもこなしてくれるエース社員は経営者としてはありがたい存在かもしれません。
しかし、実際はありがたい存在ではなくむしろ逆です。中小企業の経営者ならば「何でも出来るスーパー社員は雇わないほうがいい」のです。
会社がスーパー優秀社員に依存してしまうと、彼らが辞めてしまったときのデメリットが大きすぎます。前述のとおり近隣で独立されてしまい、下手すると自社が潰れてしまうことになるでしょう。
社長自ら集客行為に力を入れて、「ぼちぼちの社員でも売上を作りやすい環境」を整えるほうが中小企業が採用すべき成長戦略だと思います。
例外としては、オーナー企業の社長の子供がずば抜けて優秀で、会社の跡継ぎ候補(次期社長)であれば、どんどん経営を任せてしまって良いでしょう。
若手エース社員が絶対言わない本音
さて、ここまでエース社員が辞めてしまう理由やその対策について解説をしてきました。
彼らは普通の社員とは全く違った思考で仕事に取り組んでいることを経営陣は頭に入れておかねばなりません。
まず、エース社員ではない「普通の社員」が仕事に対してどのような考えを持っているでしょうか?
- 生活のため
- 仕事はボチボチでいい。
- 残業なし、休日出勤なしがいい。
- ずっと平社員でもいい
- 仕事のやりがいはあるがプライベートを犠牲にはしたくない
こんなものです。決められた業務時間内でぼちぼち仕事をこなして給料をもらってプライベートも充実させられればそれで十分なのです。
他方、エース社員はどのようなことを考えているでしょうか。
彼らの仕事に対するマインドは特殊です。
- 自分は優秀である
- できない人間であるわけがない
- 当然、仕事は他人より沢山働くし、他人より成果を出すことは当たり前だ
- プライベートよりも仕事が優先、そんなことよりも成果を出すことが大切だ
- 会社は踏み台
あえて繰り返し書いていますが、エース社員にはこのようなマインドが強固にあります。独善的であり自己中心的なパーソナルを持つ傾向が強いといえます。
休み・給料など待遇面はひとまずどうでもいいのです。「自分は出来る社員」なのですから、待遇よりもまず、仕事の成果を沢山あげることに彼らは注力します。
その後、成果に見合うだけの給料や役職がついてくれば、まぁ、OK。もし待遇に納得できなければさっさと他社に転職するか独立すればいいと思っています。特に若手エース社員ほどその傾向が顕著であることは言うまでもありません。
彼らの優先順位は、客観的な実績を沢山積み上げること、実務を川上から川下まで全て把握すること、そして実務に関連する社外の取引先と懇意になることです。
つまり、次の高いステップ(転職、独立)に上がるための踏み台として会社を利用しているのです。
残業が多かったり、サービス残があったり、休日出勤があっても、会社から学べるものがあるうちは一切文句は言わないでしょう。しかし、会社から吸収できるものが無くなり、待遇が見合わないと判断すればエース社員は会社にサヨナラを告げることになるでしょう。
中小企業は優秀すぎる社員を雇わないほうがいい
中小企業の社長であれば「1人でいいから優秀な社員がうちに来てくれれば・・・」と考えることが一度はあることと思います。
しかしこの記事に書いた通り、中小企業にとって大助かりであるエース社員ですが、実際は彼らを長く満足させながら雇い続けることはとても難しいことです。
「デキル社員を雇うべき」という前提が中小企業の経営にとって正しい選択であるのか、という事についてあらためて考えていただく機会になれば幸いです。
【執筆者】杉山綜合財務管理株式会社 代表取締役 杉山広
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