「働き方改革」が政府主導ではじまり、ようやく社会にも浸透してきた昨今ですが、まだまだ十分とはいえず、働き方改革で政府が推し進める内容も努力義務に留まっているものが多いのが現状です。
ひと昔前とは家族の在り方や生き方、そして労働者が仕事や会社に対して求めるものなど「ライフワークバランス」が大きく変わっています。
働き方改革に則って、企業がやれるべきことをすすめることは企業の成長につながるのではないでしょうか。
働き方改革とは
「一億総活躍社会」を目指し、多様なライフスタイルに合わせてライフワークバランスを大切に労働環境や正規雇用と非正規雇用の格差をなくしていこうという政府が打ち出した政策です。2018年7月6日に公布され、2019年4月から順次施行されています。
“働き方改革は、一億総活躍社会実現に向けた最大のチャレンジ。多様な働き方を可能とするとともに、中間層の厚みを増しつつ、格差の固定化を回避し、成長と分配の好循環を実現するため、働く人の立場・視点で取り組んでいきます。”
引用:働き方改革の実現 | 首相官邸ホームページ (kantei.go.jp)
働き方改革の目的
少子高齢化が進み、生産人口の減少、そして子育てや介護との両立など様々な働き方が求められるようになってきました。
個々の事情に応じて様々な働き方が選べる社会にするために、長時間労働の見直し、雇用形態による待遇格差の解消や多様で柔軟な働き方へとかえていくことを目指しています。
下記のグラフからも見えるように15~64歳の生産年齢人口は年々減り続けています。
65歳以上の高齢者や女性の社会進出や社会的地位向上が課題です。
画像引用:総務省 第1部 特集 IoT・ビッグデータ・AI~ネットワークとデータが創造する新たな価値~
働き方改革で変わる9つのこと
政府が進める働き方改革のため整備された法律は以下の9つ。
義務化され、罰則を伴うものに関してはすでに認知されていると思いますが、順に説明していきます。
残業時間の上限の規制
従来は法律で定められた労働時間を超える場合は36協定を結ぶことでそれを上回る労働が許されましたが、今回の働き方改革の法改正によって、36協定を結んでも時間外労働は月45時間・年360時間までと定められました。
「勤務間インターバル」制度の導入を推進
1日の労働時間のあと一定の時間を休息時間と定めることで労働者に休養や私的生活の時間を与えるというもので、企業に努力義務として求められている制度です。
詳しくはこちら→勤務間インターバル (mhlw.go.jp)
年5日間の年次有給休暇の取得を、企業に義務付け
2019年4月より労働者に対して毎年5日間の年次有給休暇を確実に取らせることが必要になりました。
事業主の方へ | 年次有給休暇取得促進特設サイト | 働き方・休み方改善ポータルサイト (mhlw.go.jp)
月60時間を超える残業は、割増賃金率を引き上げ
2010年から施行された労働基準法で時間外・労働に対する割増賃金率は60時間を超えた場合50%に改定されていましたが、中小事業主に対しては当面のあいだ50%への引き上げを猶予し、25%にとどめていました。
しかし今回の改正で適用猶予を廃止して、2023年4月以降は大企業と同じく50%へ引き上げになります。
※60時間未満は25%のまま
労働時間を客観的に把握するよう、企業に義務付け
現行では除外されていた裁量労働制で勤務する労働者は対象外だったものが、今回の法改正ですべての人が労働時間の管理を行い、職務状況の履歴を正確に残すように義務づけられました。
※裁量労働制とは業務の性質上、労働時間などを本人の意思に任せることを認められた働き方(裁量労働制の概要 |厚生労働省 (mhlw.go.jp))
「フレックスタイム制」を拡充
労働者自身が日々の始業時間、就業時間や労働時間を決めることができ、その調整のための総労働時間の期間が1ヶ月から3ヶ月に変更されました。
繁忙期には残業してもらい、閑散期は早めに帰社してもらうことで残業代の削減になったり、子供の学校の予定に合わせて例えば夏休みの時期は早退するなど家庭優先に働いたりと双方にメリットがある制度です。
「高度プロフェッショナル制度」を新設
・年収1,075万円以上であること
・フレックスタイム制を利用できること
・年間104日以上の休みがあること
など本人の同意と労使委員会の決議によって執行される制度です。
またこれに値する業種には限りがあります。
「産業医や産業保健機能」を強化
今までは産業医から勧告を受けた場合にはその勧告を尊重する義務がありましたが、働き方改革の法改正後は産業医から受けた報告は衛生委員会と労使に報告しなければいけなくなりました。
※衛生委員会とは労働者が心身ともに健康で働けるように対策を立てるために、事業所内に設けられた労使が話し合いを行う場です。
雇用形態に関わらない公正な待遇の確保
その判断基準となる「同一労働同一賃金ガイドライン」に則り、待遇格差がある場合はその格差が合理的なものか不合理的なものかを判断し、不合理と判断されるものは待遇の改善をする必要があります。
※待遇差が不合理かどうかの最終判断は司法でされることを留意しておきましょう。
働き方改革のための助成金制度を活用しよう
働き方改革を推し進めるにあたって企業には人件費やコストなど金銭的な負担がのしかかります。
実は労働環境の改善や雇用者のためのキャリアアップを補助した際にかかった費用は一部補助を受けることができます。
業務改善助成金
POSレジシステム導入による在庫管理の効率化や専門コンサルティングによる業務フロー見直しによる顧客回転率の向上など生産性を支援し、事業場内で最も低い賃金を引き上げるための制度です。
助成額には様々なコースや条件があるので、詳細は下記をご覧ください。
[2]業務改善助成金:中小企業・小規模事業者の生産性向上のための取組を支援|厚生労働省 (mhlw.go.jp)
キャリアアップ助成金
非正規社員に対して正社員化や処遇改善のための支援をした事業者に対して助成金を支給する制度です。
厚生労働省によるキャリアアップ助成金
※上記の助成金は可決される法案によって変わることがあります。
企業は具体的に何をすべき?
「多様な社会になった今、いかにそれぞれが望む働き方に企業が対応できるか」
それは優秀な人材の確保につながります。
現代社会で働き手が仕事に求めていること
働きがいを求めていた若い世代ですが、今は働きながらでもプライベートの時間をいかにきちんと取れるかを求めています。それを表すように、2017年に実施された仕事を選択する際に重要視する観点の調査では、「自分のやりたいことが出来ること」「安定して長く続けられること」「自由な時間が多いこと」「福利厚生が充実していること」が上位をしめています。
一方で女性は結婚や出産をしてもキャリアを諦めず、仕事も頑張りたいという人が増えています。
女性が子育てしながらも働きやすい環境づくりの実現にむけてすでに動き出している企業が目立つようになりました。
とはいえ、まだ理想と現実のギャップを感じている人は多く、子育てと仕事の両立に疲れ、泣く泣く退職してしまったという声もよく耳にします。
女性が結婚や出産をしても安心して働くためには上司や男性社員の理解促進が重要なキーポイントです
そして高齢者世代。働くという理由は様々ですが、人生100年時代になった現代の長生きリスクに備えるための収入の確保と健康維持のためという回答になっています。そして、今の仕事にやりがいを感じているか?という問いに対しても半数以上が感じると回答しています。
優秀な働き手を確保するために今企業がすべきこと
◆シニア活用、子育て世代の女性活用
冒頭のグラフからも分かるように、今の人手不足を解消するためには生産人口を増やすこと。
子育て世代の女性には積極的に時短勤務を推奨するなど肩身の狭い思いをしないように企業で取り決めたり、シニア労働者に対してはしっかりと聞き取りを行ったりして、本人がフルタイムを望むのか、それとも体力などの問題でパートタイム勤務を望むのかを把握してそれぞれが希望する雇用形態に答えることが大切です。
◆リモートワークやフレックスタイム制の導入
在宅ワークやテレビ会議などを活用することはライフワークバランスの満足度向上につながります。
私自身、人手不足の労働環境や家庭のことをしながら、毎月1回会議のために東京本社への日帰り出張がとても負担でした。それがテレビ会議に変わったときはすごく助かりました。
リモートワークを導入することで子育て世代の離職率の低下、そして女性の管理職なども生まれやすくなり、女性の社会的地位向上も期待できるのではないでしょうか。
またフレックスタイム制を取り入れて労働時間を労働者にゆだねることは生産率アップに影響してきます。
フレックスタイム制を導入しておけば、満員電車を避けて出勤したり、女性であれば生理痛でしんどい日は気兼ねなく休めたり、子供の体調不良や学校の行事のときは子供優先で過ごせたりします。
沢山のタスクやストレスを抱えながらでは生産率は低下し、企業にとっても労働者にとっても良いことはありません。
◆業務プロセスの見直し
紙媒体や個人間のメールのやり取りをなくし、チャットワークを導入、Googleドキュメントなどを活用していくことで、無駄なやり取りを減らすことができます。誰もが同じ情報を共有し、作業もスムーズに進むはずです。
様々な企業の中からひとつの企業を選択したということはその企業で働きたいをいう想いがあるはずです。
結婚や出産、介護などが人生の中に入ってきたとしても、そのときの環境に合わせて働き方を柔軟に変えられる、そんな企業であれば企業愛にもつながり離職率も下がるのではないでしょうか。
参考資料:働き方改革~一億総活躍社会の実現に向けて~PowerPoint プレゼンテーション (mhlw.go.jp)
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