売りたいのに売れない状態が、突然やってきます。
これがプライベートクレジット(以下、PC)の核心的なリスクです。
2026年、ブラックストーンの個人向けPCファンドに1四半期で37億ドル(約5,800億円)の解約請求が殺到しました。通常の上限を超えたため、ブラックストーンは自腹で4億ドルを補填して対応しました。
同時期、Blue Owlは四半期解約を完全停止。合計46億ドルの投資家資金が引き出し制限で足止めになりました。
日本でも無縁ではありません。大和証券が2023年から取り扱いを開始し、残高はすでに976億円規模に達しています。アメリカで解約ラッシュが起きている間、同じ商品の販売が日本で拡大していました。
これは事故ではなく、商品の構造から必然的に起きることです。
※下記動画でも解説しています
※テキストで概要を把握したい方は下へスクロールして読み進めてください。
参考
Black Stone プライベートクレジット入門
野村アセットマネジメント プライベート・クレジット投資
目次
利回り10%の正体 銀行が断った相手に貸すということ
構造から整理すると、株式は「出資」です。
会社の一部を買い、儲かれば配当や値上がり益を得られます。その会社が破綻すれば、投資資金は、ほぼ戻りません。
他方、プライベートクレジットは「貸付」です。会社にお金を貸し、借り手が返済すれば利息と元本が戻ってきます。値上がり益は期待しない代わりに、利回りが7〜10%程度に設定されていることが多いです。
この高利回りの理由は、投資先が「銀行に融資を断られた企業」や「決算情報を開示したくない非上場企業」だからです。銀行がリスクが高いと判断した相手に貸すのですから、金利が高くなるのは当然の話です。
3つの誤解とその裏側
誤解①「デフォルト率2%だから安全」
公表されているプライベートクレジットのデフォルト率は約2%です。
ただし、この数字はPIK(Payment-in-Kind)という仕組みの存在によって、実態を反映しなくなります。
PIKとは、利払いを現金で行う代わりに借金の元本を積み増すことで代替する仕組みです。飲み屋のツケに近い発想で、「今日の代金を払えないから次回に」という状態です。
通常、借入金や社債の利払いが遅延したり、出来なくなった場合、その会社は破綻(デフォルト)とみなされます。
それにも関わらず、PIKを利用すれば「利払いの延滞なし・破綻なし」の扱いになります。
「飲み屋のツケ」と違うのは、PIKは増えた借金の元本にも利息が発生することです。借金が雪だるま式に増えていくリスクが高まり、借り手の財務悪化は、表面に出ないまま静かに進行します。
PIKを含めたプライベートクレジットの実質的なデフォルト率は約5%と推計されています。
比較すると、投資適格社債のデフォルト率は年0.1〜0.2%です。ジャンク債(ハイイールド債)は通常時で2〜4%、リセッション時に10〜14%まで跳ね上がります。
プライベートクレジットの表面デフォルト率2%はジャンク債の通常時と同水準ですが、じっ実質5%のデフォルト率であるならば、ストレス時にどこまで跳ね上がるでしょうか。
つまり、ジャンク債よりリスクが高いと判断するのが妥当です。
誤解②ブラックストーンが運用、機関投資家も買っている=安全
年金基金や生命保険会社がPCに投資しているのは事実です。ただし彼らの運用資産は数兆〜数百兆円規模であり、PCへの配分は全体の数%程度に過ぎません。
なにより、「20〜40年動かさなくていい」前提で投資しています。
しかし、個人の資産管理はまったく異なります。
急な病気・相続・事業の資金需要は突発的にやってきます。年金にとっての「流動性がなくても問題ない」は、個人にとって致命的になりえます。
大手と同じ商品に投資することがローリスクな運用を意味するわけではありません。
誤解③解約ゲートは投資家を守る措置
解約ゲートとは、解約する日や金額をあらかじめ制限するルールです。
PCの解約ゲートについては、「大量解約が起きるとファンドが不安定になるため、ゲートで制限することで残る投資家を守っている」という説明が使われます。
その一面は確かに正しいと言えますが、モノは言いようです。
解約を止めれば、運用会社は保有資産を売らずに済みます。資産を売れば損失が確定します。
ゲート条項は含み損の顕在化を防ぐための時間稼ぎであり、一番守られるのは運用会社の評価ではないか、との批判が増えています。
2026年のブラックストーンのPC問題では、通常の解約上限5%(毎月の解約上限額、純資産額の5%が上限となっていた)を超えて7%まで解約に応じました。一見、投資家寄りの対応に見えますが、裏を返せば「解約上限額を自分たちが自由に動かせる」という事実でもあり、解約上限額を引き下げることも、0にすることも、契約上は可能です。
リーマンショックとの違い
PCをめぐって「次のリーマン・ショックではないか」という声があります。現時点の判断では、リーマン型の世界金融危機は起きにくいと考えています。ただし、PCそのものが安全ということとは別の話です。
サブプライムローン問題はMBS・CDO・CDSという証券化と保険の連鎖で、契約規模が約46倍に増幅され、世界中の銀行のバランスシートに組み込まれました。ピーク残高1.3兆ドルのサブプライムローン残高が、名目上60兆ドル規模(約7,200兆円)まで膨れ上がり、そのバブルがはじけました。
PCにはこの多層的なハイレバレッジ構造がありません。
PCの現在残高は1.8〜3兆ドルで、規模ではサブプライムをすでに超えています。しかし銀行はPCを直接保有しているのではなく、PCファンドに資金を貸しているという関係です。
爆弾を体内に抱えているのではなく、爆弾工場に融資している状態に近いです。工場が爆発しても銀行への直撃は限定的です。無傷ではありませんが、リーマン型の連鎖崩壊とは構造が違います。
この商品を「買っていい人」と「買うべきでない人」
買っていい人(少数派)
- PCへの投資額が全金融資産の5〜10%以内に収まる
- 向こう7〜10年、その資金が完全に不要と確信できる
- 解約できない状態が数年続いても、生活・事業に影響がない
買うべきでない人(大多数の個人)
- 急な資金需要の可能性がある
- ポートフォリオの大きな割合をこの1商品に集中させようとしている
- 「利回り7%の安定資産」という説明だけで判断しようとしている
なぜ「頭のいいお金持ち」ほど引っかかるのか
証券会社に16年勤めた経験から言います。この商品は、知識があってお金を持っている人のほうが引っかかりやすい設計になっています。
使われる武器は4つです。
権威の利用:「ブラックストーンが運用」「年金基金もPCに投資している」という事実を前面に出します。権威に乗りやすい人ほど、判断が止まります。
複雑さ:PIK・解約ゲート・LTV・Senior Secured Loan……専門用語が並びますが、頭がいいお金持ちは、その説明が理解できるため、「表面上のリスクが低く見える」という逆説が生まれます。
一見正確な数字:「デフォルト率2%(本当は5%では?)」が、本質を隠す技術として機能します。
選民意識:「富裕層・機関投資家向けの商品」という演出が、承認欲求を先行させます。
付け加えると、販売している金融機関の担当者自身がPCのリスクを正確に把握していないケースがあります。「利回り7%の安定資産」として会社から教育され、そう信じて売っている場合もあります。
信じていなくても、会社の指示で販売せざるを得ない状況のほうが多いかもしれません。
今すぐ確認すべき2点
PCを勧められている、またはすでに保有している人への確認事項は2つです。
① ゲート条項の発動条件を確認する
「四半期5%まで解約可能」という説明だけでなく、発動条件・停止された場合の対応を具体的に確認してください。
② 「この資金が何年間不要か」を自分に問う
7〜10年完全に動かせない前提で、生活設計に問題がなければ検討の余地はあります。問題がある場合、選択肢から外れます。
投資で大切なのは適切な出口があるかどうか
私が投資を判断するとき、真っ先に考えるのは出口の有無と、その出口の広さです。金融商品だけでなく、不動産投資でも同じです。
不動産の立地や条件がどれだけ良くても再建築できない物件は検討対象から外すことがほとんどです。
投資先と心中するわけにはいかないからです。
売れない商品は論外と、あえて断言します。
PCは、その出口が構造上、狭い商品です。
すでに世界中で3兆ドル規模で販売されているわけですから、PCに魅力的な一面があるのは事実です。だからこそ、「絶対に買うな」と言いたいわけではありません。
しかし、自分が許容できるリスクかどうかを見極めてから決断してください。
執筆者
杉山綜合財務管理
代表取締役 杉山広
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杉山は証券会社出身で、不動産会社経営・民泊運営・証券投資を自ら実践しています。
「売る側」と「買う側」、両方を経験しているからこそ書ける話があります。
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