山下智久さん、市原隼人さんが出演するドラマ版「正直不動産」はかなりリアルです。
「正直不動産」は小学館の漫画が原作で、2022年にNHKでドラマ化されました。
主人公の永瀬財地は、嘘をつくことに抵抗がないトップ営業マン。
ある事故をきっかけに、正直なことしか言えない体になってしまいます。業界の「本当のこと」を顧客に言ってしまう、という設定です。
ただし、ドラマなので当然誇張もあります。
シーズン1の第1話・第2話に出てくるサブリース、一般媒介、安すぎる賃貸物件、申込金(預り金)。不動産会社を経営している立場から、実務ベースで検証します。
同じ内容を動画でも解説しています。
→ 正直不動産ドラマ版は本当にリアル?不動産屋が1話・2話を辛口解説
目次
サブリース「30年保証」で大家は安心か
「30年一括借り上げ保証」という言葉は安心感があります。ただし、契約期間と賃料の固定は別物です。
ドラマ第1話で永瀬が地主に提案するサブリースの営業トークは、「空室でも家賃が入る」「ローン返済も安定する」というものです。これ自体は嘘ではありません。問題はその先です。
サブリース契約の構造は次の通りです。
契約期間は一般的に30年。ただし賃料は定期的に見直される。業者側から中途解約できる場合がある。修繕費・設備交換費はオーナー負担になることが多い。
最初は高めの保証賃料が設定されています。ところが築年数が経過して空室が増え、修繕費もかかるようになると、「保証賃料を下げてください」と言われます。
大家が断ると「ではサブリース契約を解約します」と言われる可能性がある。
ここがサブリースの怖いところです。
サブリース契約を締結する前に確認すぺき3点
大家側の立場で確認すべきポイントは最低でも3つです。
- 中途解約条項の内容
- 保証賃料の見直し条項の内容
- 修繕費・設備交換費は誰の負担となるか
ただし、はっきり言えば、
業者側が中途解約できない、賃料の見直しもない、修繕費も業者負担、というオーナーに都合の良すぎる契約は現実には成立しません。そんな条件では業者側が潰れるからです。
サブリースに向いている人・向いていない人
サブリースの本質は、面倒な賃貸管理を業者に丸投げできる代わりに儲けを減らす契約です。
そのため向いているのは、本業が忙しくて不動産賃貸経営を副業でやりたい人です。
管理の手間を省く対価として利回りが下がる、それを理解した上で選ぶなら悪くない選択肢です。
証券業界に16年いた経験から言うと、サブリースと同じ構造の商品が他にもあります。
毎月分配型投資信託がその典型です。
実際は元本を削っているにもかかわらず、毎月入ってくる分配金しか見ない投資家が多くいました。
保険という商品にも同じことがいえます。
「あれもこれも不安」で不必要な保険に沢山加入して保険料で毎月の生活が苦しい・・
保険貧乏ですね。
つまり、合理性よりも安心感を優先する、という構造が共通しています。
一般媒介契約が「裏目に出る」構造的な理由
一般媒介契約とは複数の不動産会社に売却を依頼できる契約です。
売主からすると、複数の業者に頼める、販売チャネルが増える、業者同士で競争が起きる、だから高く早く売れるのではないか、と考えるのは自然です。
結論から言うと、実務では逆になることが多いです。
なぜ業者は一般媒介案件を後回しにするか
理由はシンプルです。
不動産A社で契約が決まったらB社C社はタダ働きになるからです。
- 物件調査をする
- 広告を出す
- 内見対応をする
- 資料を作る
ここまでやっても別の業者で契約が決まれば手数料はゼロです。
そのため、業者側からすると、一般媒介の売却案件はどうしても優先順位が下がります。
レインズで実際に起きていること
レインズ(不動産業者間サイト)を実際に見ていると、一般媒介の売却案件として同一物件を複数の業者が掲載しているケースが散見されます。よく確認してみると、同じ物件なのに売却価格が違っていたり、情報が更新されていなかったりします。
これは要するに、その売却物件がきちんと管理されていない、あるいは、後回しにされている可能性がある、ということです。
ドラマ第2話で、永瀬のライバルである桐山が売主への売却相談を受けた時点ですでに買い手の目星をつけていたシーンがあります。売主から相談を受けた業者が、市場に情報を公開する前に懇意にしている買い手に話を持っていく。これは実務上かなりよくあります。
違法ではありませんし、必ずしも売主にとって悪い話ではないケースもあります。
早く売れる、手間が少ない、冷やかし客を回避できる、といったメリットがあるからです。
ただし広く募集に出さないということは、もっと高く買ってくれる人がいたかもしれない可能性を捨てているということでもあります。売り急いでいないなら、業者に「レインズに物件情報を流してください。個人消費者向けの媒体にも掲載してください」と伝えた方がいいでしょう。
一般媒介が機能する物件・機能しない物件
一般媒介が機能するのは、物件そのものに強い競争力がある場合に限られます。
超好立地・相場より割安・駅近・形の良い土地。放っておいても買主が集まる物件なら、一般媒介でも成立します。逆に言えば、それ以外の物件で一般媒介を選ぶのは、業者全員を消極的にするリスクが高まってしまいます。
安すぎる賃貸物件のリスクと原状回復の本当のルール
ドラマ第1話に出てくる、ある大家は、入居者へ無言電話などで嫌がらせをして短期退去させ、新しい借主を見つけ同じ嫌がらせを繰り返すということをやっていました。
その理由は短期で借主を回転させることで、敷金・礼金を稼ぐためです。
このシーンは、悪質すぎて、もはや犯罪レベルです。非常に稀な事例といえるでしょう。
大家の本音
実務で言えば、ほとんどの大家は入居者に長く住んでほしいと思っています。新規の借り手から入ってくる敷金・礼金より、空室による収益機会損失のデメリットの方が圧倒的に大きいからです。
人気エリアの好立地でもない限り、半年空室はザラにあります。店舗や事務所なら1~2年空室になることも珍しくはありません。短期退去を狙って礼金・敷金を稼ぐというのは、実際には大家側にとって割に合わないことが多いといえます。
ただし、ドラマが示している本質は正しいです。相場より安すぎる物件には、理由があります。
安さには必ず理由がある
建物が古い、騒音がある、日当たりが悪い、近隣トラブルがある。こういう事情が家賃の安さに反映されています。「なぜ安いか」を確認せずに「得した」と入居すると、退去コスト・違約金・ストレスという形で後からその代償を払うことになります。
ドラマには原状回復の問題も出てきます。汚いカーペットやカーテンを処分したら「原状回復できないから敷金は返さない」という大家の主張です。これは実際のところ、かなり苦しい主張です。
原状回復は「元通り」ではない
原状回復とは、借りた当時の状態に完全に戻すことではありません。
通常使用による経年劣化や自然損耗まで借主が全部負担する考え方ではありません。
ドラマでは、古くて汚いカーペットやカーテンを借主が退去時に処分したことを理由に敷金を全額返さないという描写があります。
この点については法的に争えば借主が取り戻せる可能性が高いです。そもそもカーペットやカーテンの価値は敷金に相当するほど高いものではありません。借主がそれらを破棄したとしても大家が請求できるのは同種のカーペットやカーテンを購入するための実費程度です。
ただし現実問題として、敷金10万、20万を取り返すために弁護士を雇って裁判までやるかどうか、というコストと手間の問題があります。裁判で敷金を取り返すことが出来ても弁護士費用などで借主は大赤字です。裁判までやらずとも民事調停などの方法もありますが、いずれにせよ手間がかかります。
入居前・退去時にやっておくこと
借主側で最も簡単にできる原状回復対策は2つです。
- 入居時と退去時に部屋の写真と動画を隅々まで撮っておく
壁・床・天井・水回り・設備・傷・汚れ、すべてスマホで記録しておく。スマートフォンがあれば誰でも簡単に出来ます。 - 契約書と重要事項説明書を契約前に必ず読む
特約・原状回復・短期解約違約金・敷金の扱い・退去時費用、このあたりの条項は必ず確認しましょう。気になる点があれば不動産屋に確認するといいでしょう。契約「後」に騒いでも後の祭りです。
申込金より危ない「この物件を逃したら終わり」という心理
ドラマ第2話に出てくる、人気物件を内見せずに決めようとして預り金を差し入れた夫婦のシーン。
預り金・申込金の法的な話も重要ですが、実はそれより危ないのが顧客側の心理状態です。
申込金・預り金の法的な扱い
まず法的な話を整理しておくと、賃貸の申込金・預り金は、契約が成立しなければ原則として全額返金されるべきものです。「キャンセルしたら返せない」という業者の主張は法的根拠が薄く、無効である可能性が非常に高いといえます。
仮にそのようなトラブルに遭遇することがあれば、都道府県の宅建業を所管する窓口に相談すれば対応できるケースが多いです。
もっとも今の時代、そこまで分かりやすい悪徳業者はかなり少なくなっています。まともな業者は顧客から録音されているだろうと思って対応するし、業者側も当然会話を録音しています。
申込金を払った後に生じる心理の罠
それより本当に危ないのは申込金そのものではなく、申込金を払った後に生じる顧客側の心理です。「もうお金を払った」「ここまで進めた」「今さらキャンセルしにくい」という気持ちが働きます。これは業者側からすると契約に近づけるためのテクニックでもあります。
ドラマでは、夫婦の奥さんが「もうこの物件以外考えられない」と言うシーンがありますが、これが一番危ない心理状態です。
何としても逃したくない、この物件を逃したら終わりだと思っています。交渉としては最悪に近い心理状態です。
不利な条件でも飲み込んでしまう、冷静に契約書を見なくなる、他の選択肢を考えられなくなる、良いことは何一つありません。
不動産は全く同じ物件がないため「これを逃したら二度と出会えない」と思いやすいのは確かです。しかし、実際にはそんなことはありません。
私自身、仕事柄レインズもSUUMOも日常的に見ていますが、「あ、これ買いたい」と思う物件は年に数回は出てきます。問い合わせたら既に申込みが入っていた、契約前提で話を進めていたら相手側の都合で流れた、ということが実際にあります。
- あぁ、あと一歩だったのに
- もったいないことをしたなぁ
- あぁ、あの物件が買えていれば今頃・・
このように思うことはあります。
ところが、こまめに売買物件を探していれば、ポロっと、良い物件は出てきます。
何なら逃した物件より良いんじゃないか?と思えるような物件に出会うことすら珍しくありません。
ですから、「この物件を逃したら終わり」という考え方はやめましょう。
足元を見られて良いことはありません。
FAQ
Q:サブリース契約を途中で解約することはできますか?
A:オーナー側からの解約は法的に非常に難しい場合がほとんどです。借地借家法はサブリース会社(借主)を保護するため、オーナーが一方的に解約するのは困難です。契約前に解約条項を確認し、更新拒否の条件を把握しておくことが重要です。
Q:一般媒介と専任媒介、どちらを選ぶべきですか?
A:物件に強い競争力があれば一般媒介でも機能しますが、それ以外は専任媒介の方が業者が積極的に動きやすい構造です。「複数に頼めば競争する」という前提は実務では機能しにくいケースが多いです。
Q:賃貸の申込金はキャンセルしたら本当に返ってきますか?
A:契約が成立していない段階であれば、原則として全額返金されるべきものです。「返金不可」と言われた場合は都道府県の宅建指導課などへ相談してください。契約後のキャンセルは、「解約」扱いとなるため、払い込んだお金はほぼ戻りません。また違約金が発生する契約条件の場合もあります。契約書は契約する前によく確認しましょう。
Q:安すぎる賃貸物件は絶対に避けるべきですか?
A:避けるべきではなく、「なぜ安いか」を確認しましょう。事故物件・騒音・日当たり・近隣トラブルなど、理由を把握した上で許容できるなら合理的な選択です。「平日の朝・夜」+ 「土日の朝・夜」の下見をしておくと物件の外部環境を把握しやすいためオススメです。
終わりに
正直不動産を見ていて実感することは、
不動産業界においては、顧客側と業者側の情報格差がまだまだ大きいことです。
騙された!嘘つきめ!こんな言葉は、不動産業界では日常茶飯事です。
だからこそ、不動産取引で最も大事なのは、信頼できる専門家を見つけることです。
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執筆者
杉山綜合財務管理
代表取締役 杉山広