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投資・経済コラム

ソフトバンクグループ「日本最高益5兆円」トヨタを抜く。その中身の危うさ

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ソフトバンクグループ(以下SBG)が5月13日に発表した2026年3月期の純利益は5兆23億円という日本企業として史上最高益の内容でした。

しかしその利益の92%は、SBGが投資するOpenAIという非上場企業の株式評価額が上がったことによる帳簿上の利益で、SBGの銀行口座には一円も入っていません。この5兆円・日本企業史上最高益、という言葉を見て、「稼ぎまくった優良企業」と解釈するのは、決算書の読み方としては危ういと言わざるをえません。

この記事ではSBGの直近決算のカラクリについて現役証券マンである筆者が解説します。

本記事の内容をYoutubeでも分かりやすく解説しています。ぜひご確認ください。
ソフトバンクG純利益5兆円の正体|92%がOpenAI含み益?株価20%急騰の理由

「日本史上最高益」、でも翌日に株価は急落

決算発表翌日、SBGの株価は下落しました。
「史上最高益なのになぜ?」と思った人は、多いことでしょう。

その答えは実は単純です。投資家たちはOpenAIの評価益がいくらになるかを事前にあたりをつけて計算し、それを株価に織り込んだ上で買っていました。
決算発表日に「想定通りの数字」が出ても、株価はほぼ反応しません。いわゆる「材料出尽くし」と呼ばれる典型的なパターンです。

逆に、その翌週5月21日にOpenAIのIPO申請準備を伝える報道が出ると、SBGの株価は約20%急騰しました。
SBGの保有するOpenAI株の含み益が現金に変わるかもしれないというニュースに市場は反応したのです。

SBGは今でも通信・IT企業として見ている人は多いかもしれません。しかし、実態は全く変わってきています。現在のSBGは投資ファンドといっても過言ではありません。

利益5兆円の中身——92%が「まだ存在しない〇〇」

SBGは国際財務報告基準(IFRS)を採用しており、IFRSでは、保有株式の評価額が上がった場合、売却していなくても「利益」として計上するルールになっています。

SBGのOpenAIへの累計投資額は346億ドル(約5.5兆円)。それが今期末時点で公正価値796億ドル(約12.7兆円)と評価されました。
差額の450億ドル(約7.2兆円)、これがそのまま今期の利益(税引前)に計上されたことになります。SBGの投資損益合計7兆2,865億円のうち、OpenAI関連だけで6兆7,304億円を占めます。

ここで1つ疑問に思うことがあるかもしれません。OpenAIは非上場企業なのに、OpenAI株の評価はどうやってするのだ?ということです。上場企業であれば株価は明白ですがOpenAIはまだ上場していません。

実は、「公正価値796億ドル」という数字は、直近の資金調達ラウンドで合意した評価額
を基に推計した数字であり、株式市場で毎日値段がつく上場株とは性質が異なります。

OpenAIの業績が悪化した、競合AIが台頭した、資金調達環境が悪化したとなれば、OpenAIの非公開株の評価額は下がります。そうなればSBGの翌期決算には「評価損」が計上されることになります。

SBGの決算誤解

誤解1「日本史上最高益」

例えば、トヨタ自動車の利益は車を作って、それを販売したキャッシュです。
三菱UFJフィナンシャルグループの利益は、融資・運用で積み上げたキャッシュです。
どちらもビジネスを動かして生み出した、使えるお金といえるでしょう。

しかしSBGの利益約5兆円は違います。あくまでも帳簿上の数字です。配当の支払いにも、借金の返済にも、新しい投資にも、直接使えないわけです。

証券業界で16年間、個人クライアントの資産運用をアドバイスしてきた立場から言うと、「最高益」という言葉は企業の「キャッシュを作り出す実力」を表す場合と、会計基準の特性を反映しているだけの場合がある。

2026年3月期のSBGの決算は、後者です。

誤解2「OpenAIがIPOしたら、SBGはすぐに現金を回収できる」

OpenAIの上場準備のニュースがでたのち、SBGの株式は約20%上昇しています。これらはOpenAIの上場によってSBGが莫大なキャッシュを手にすることができるかも、という期待感からだと考えられます。

ただし、大株主はIPO後すぐに株を売れない。ロックアップ期間と呼ばれる売却禁止期間が通常6〜12ヶ月設定されます。SBGはOpenAIの持分比率が約13%といわれており、大株主であればあるほど、ロックアップの制約が厳しくなる傾向があります。

さらに、仮にロックアップが解けても、大量の株式を市場に放出すれば株価は急落します。「OpenAI株売却で、すぐに、利益5兆円丸ごと回収」という絵は、現実的には難しいといえるでしょう。

誤解3「アリババの再来。孫正義はまた同じ魔法を使う」

SBGの孫正義氏のアリババへの投資はもはや伝説的ストーリーです。SBGは2000年にアリババへ約20億円を投資し、2014年のアリババIPO時には株式時価評価は6〜8兆円、実に3,000〜4,000倍になったことになります。

この成功体験があるから「OpenAIでも同じことが起きる」という期待が投資家の間で生まれているのかもしれません。

しかし、アリババとOpenAIへの投資では、構造が根本的に違います。アリババは少額投資が膨大なリターンに化けた話です。20億円の投資が失敗してもSBGが潰れるリスクはほぼありません。他方、OpenAIへの投資ではすでに5.5兆円(346億ドル)を投資しています。

さらにSBGは、追加で300億ドルをOpenAIへ投資予定で、累計出資は646億ドル(約10兆円超)になる見込みです。失敗した場合の傷は、アリババとは桁が違います。

過去に、孫正義氏がWeWorkに投資したときも、最初は「次のアリババ」という期待がありました。しかしIPO前にガバナンス問題が発覚し、評価額は急落。2020年3月期前後に表面化した初期局面の損失として約7000億円。その後も損失は追加され、2022年度にはWeWork関連で約6,000億円、2023年度にもWeWork破綻(チャプター11)の影響などで約2,500億円の損失が出ています。累計では、報道ベースで143億ドル超の損失(当時の円換算で約2兆円規模)を出したといわれいます。

SBGが描いているシナリオと、崩れる条件

基本シナリオ

2026年秋〜2027年にOpenAIが上場し、SBGは段階的に含み益を実現。5兆円の含み
益の一部(おそらく2〜3兆円規模)が実現益に変わる。

上振れシナリオ

OpenAIの評価額がIPO時にさらに拡大。孫正義氏が「次のアリババ級成功投資」として歴史に名を刻む。

下振れシナリオ

OpenAIの上場が遅れる、または上場後の評価額が現在より大幅に低下。WeWorkの失敗投資の再来。SBGの有利子負債25兆円の金利負担が重くのしかかる。

 

今後チェックすべき指標

  • OpenAI IPO申請の公式発表(最大のトリガー)
  • 2026年7月・10月の追加出資トランシェの資金調達状況
  • Arm株価(NASDAQ: ARM)——SBGの財務バッファーの代理指標
  • OpenAIの売上規模に関する非公式報道

最後に

OpenAIが上場し、ロックアップが解け、その株価が今の評価額を維持する。

この3つが揃って初めて、SBGの利益5兆円は現実のお金になります。

「日本史上最高益」という見出しに飛びつく前に、自分が賭けようとしているのはSBGという会社ではなく、OpenAIのIPOシナリオだと理解しておくことが、投資の判断基準として重要です。

執筆
杉山綜合財務管理
代表取締役 杉山広